研究

ブロードバンド&モバイル時代を担う新材料・新プロセスの開発

インターネットの普及により、家に居ながらにして世界中の情報が得られるようになっています。そして、今、さらにブロードバンド時代へと向かっています。「ブロードバンド」とは「広い道」を表していて、家と世界をつないでいる道や、携帯電話がつながっている道を今の数千倍の広さにしようとするものです。近い将来、会社に行かずに家で仕事をするようになったり、病院に行かなくても自宅で診察を受けられるようになるかもしれません。

このような社会を実現するために、現在よりもさらに計算速度が速く、かつ微小な電力で働く素子を開発しなければなりません。私たちは、その一環として新たな電子材料の開発とその評価に取り組んでいます。例えば最先端のLSIでは、数ミリメートル四方の中に何億個もの半導体デバイスが作り込まれており、1個のデバイスの大きさはナノメートルレベルに達しています。その作製プロセスの精密な制御はもちろん、電極や基板材料についても、その特性を思いのままに設計して、デバイスの高性能化を図る必要があります。私たちは人間の目では見ることができない原子レベルの世界で何が起こっているのか理解を深めることを重視しながら、幅広い見地から次世代のエレクトロニクスを支えるための研究開発を進めています。

高速動作・低消費電力LSIを実現する半導体デバイスの研究開発

大きさがナノメートルレベルに達した半導体デバイスでは、量子効果の影響が大きくなってしまい、性能向上が非常に困難となります。特に絶縁膜として用いられてきたシリコン酸化膜は1ナノメートル近くまで薄膜化されており、量子トンネル効果による漏れ電流が大きな問題となっています。私たちは、絶縁膜に厚みをつけて漏れ電流を抑えつつ、大量の駆動電流を流すことができる高誘電率ゲート絶縁膜とメタルゲート電極の導入に向けて、材料・構造・プロセス技術の研究開発を行っています。また、現在LSIの基板として使用されているシリコンよりもキャリア移動度に優れるゲルマニウムを基板とするデバイスの実現に向けて、表面清浄化処理や絶縁膜形成技術についての研究も行っています。さらには、次世代の高機能半導体基板であるSGOI(SiGe On Insulator)やGOI(Germanium On Insulator)の作製・評価技術についても研究開発を進めています。

ワイドギャップ半導体の理想表面創成・絶縁膜技術の研究

炭化シリコン(SiC)に代表されるワイドギャップ半導体は、新幹線やハイブリッド自動車のモーターを駆動したり、高効率で電力エネルギーを輸送するパワーデバイスと呼ばれる半導体素子用材料として注目されています。現在はSiパワーデバイスが主流ですが、ワイドギャップ半導体を用いることで、省エネや炭酸ガス抑制効果が期待できます。その優れた特性を最大限に引き出すためには、理想的な表面を準備したり、絶縁膜との界面特性を改善するための新技術が必要となります。私たちはSiCパワーデバイスの実現に向けて、高密度プラズマを利用した新プロセスや新材料の研究開発を行っています。

放射光利用とグリーンナノエレクトロニクスへの展開

極めて高輝度で指向性が高く、あらゆる波長を含むことから「夢の光」と称されるシンクロトロン放射光は、これまで見ることのできなかった原子レベルの世界を照らし、ナノテクノロジー、電子材料、生命科学、新薬の開発、触媒反応、医療応用、考古学、宇宙の起源に迫る素粒子物理学、犯罪捜査まで多岐にわたって活用されています。渡部研究室では、世界最高の性能を誇る西播磨科学公園都市の放射光施設SPring-8(1周1400mもある巨大な電子蓄積リング)や、つくば市の高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factoryにおいて、グリーンエレクトロニクス材料中で原子がどのように配列・結合し、そしてどのように動くかについて極めて高精度な計測実験を行っています。結晶中の歪み、結晶欠陥、結晶面ゆらぎなどの実空間分布をX線の回折・散乱によって可視化する放射光トポグラフィでは、実験室系では不可能な高精度かつ大面積の測定が実現でき、次世代半導体ウェハや太陽電池薄膜の性能向上につながる知見を得ています。また、放射光光電子分光分析では、ナノメートル以下の極薄絶縁膜や金属膜について界面構造やエネルギーバンド構造を精密に評価することで、材料物性をはじめ異種材料間の相性・安定性を調査し、ナノエレクトロニクス材料の設計を行っています。


Fig.1
直径300 mmのSOIウェハの
放射光トポグラフィ像

Fig.2
SPring-8における実験風景

安全・安心な社会の実現をサポートする高精度X線撮像装置の開発

透過型X線撮像装置は物質の内部を非破壊で観察できることから様々な分野で活用されています。最近では製品の安全、安心への関心が非常に高まっており、製造者、販売者に対する責任も以前にも増して問われるようになっています。特に食品や飲料品、乳幼児向け製品は抜き取り検査から全数検査へと進展しています。医療用X線撮影診断の分野では、従来のX線の吸収効果による検査ではなく、X線の位相計測を用いた検査手法が検討されており、特に日本人女性の16人に1人が患う乳がんの早期発見に期待がよせられています。渡部研究室では、半導体の微細加工技術をX線光源に適用した新しい方式のX線撮像装置の開発を行い、安全・安心な社会の実現を目指しています。


X線位相微分像
左:お米、右:しらす

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